肌育コラム

COLUMN
2019.01.28

【第三回】美肌のための栄養「バランス」
~美肌、心、カラダの健康と栄養~

【第三回】美肌のための栄養「バランス」~美肌、心、カラダの健康と栄養~

健康な美肌のためにはその材料となる栄養が重要です。それがより解明されてきた背景には遺伝子研究と分子生理学の進展で、表皮のターンオーバー(表皮が表皮の底の基底層という層から少しずつ、皮膚表面に向かって上に上がっていく新陳代謝のこと)の際に、基底層から有棘層、顆粒層、角質層と各層の細胞で発現する遺伝子が分子レベルで発見されてきたため、分子レベルで栄養素が必要なことがわかってきたからです。

たとえば、乾燥肌では皮膚バリアが損なわれていて健康な肌よりも水がより蒸発しやすくなっているのですが、その肌では必須脂肪酸が足りないことがわかっています。また皮膚が赤く炎症を起こしているときには蛋白や葉酸が消耗されるのでよりしっかりと摂取しないと不足します。

様々な研究から、健康な皮膚に必要な栄養素は、蛋白(アミノ酸)、脂肪酸、カルシウム、亜鉛、銅、セレン、ビタミンA、B、C、D、Kなど、というのがわかっています。これだけたくさんの栄養素、全部しっかり摂るのは無理、一つくらい足りなくてもいいんじゃないかしら、と思われるかもしれませんが、それが実は大きな落とし穴となります。

というのも、栄養素は木の樽を構成する木の板の一本一本のようなもので、どれか一つの栄養素が不足していると、木の樽の木片の一つが短くなっているようなもので、その木片より上には水が満たないのです。これをリービッヒの木の樽説(最小律)と呼び、もとは19世紀のドイツの化学者リービッヒ先生が提唱した説ですが、今ではゲノミクスやメタゲノミクスなどが進んで、よりそのとおりだとわかってきています。

タンパク質を構成する20種類のアミノ酸についても同様です。

健康な皮膚の材料としてトップにランキングされるタンパク質は20種類のアミノ酸でできています。そのアミノ酸は、必須アミノ酸と非必須アミノ酸に分類されていて、10個の必須アミノ酸(こどもでは10個、大人は9個)は、私達人間が体内で作ることができないので、必ず外から摂り入れないといけないアミノ酸なので「必須」と名付けられています。

非必須アミノ酸は自分たちの細胞で作ることができます。上述のリービッヒの木の樽説で、アミノ酸のうち、たとえばリジンというアミノ酸一つが少なかったら、リジンの木片が短くなっているので、その高さから上に水が満たない状態です。

「第1回美肌のために大切なこと ~美肌、心、カラダの健康と栄養~」でも書いたのですが、蛋白が不足している方がとても多いのです。野菜がヘルシーだと誤解されて野菜はしっかり食べるけれども、卵や魚などのタンパク源が足りないのです。

今の日本人の蛋白質摂取量が、戦後と同じくらいにまで下がっています。バブルの時期までは蛋白摂取量は増えていたのですが、平成不況になってからは、安価な炭水化物などの摂取が増えたからといわれています。タンパク質は健康な皮膚、爪、毛髪、そして感染症と戦うための抗体や、脳内伝達物質やホルモンの材料でもあるので、毎食100gほどのタンパク源(卵、肉、魚、大豆食品)を食べることをお勧めしています。

もっと自分に足りない栄養などを細かく知りたい場合は、栄養に明るい医師にご相談なさってみてください。当院でも歓迎です。

伊藤明子(いとうみつこ) <この記事の監修>
小児科医、公衆衛生専門医、同時通訳者
伊藤明子(いとうみつこ)

赤坂ファミリークリニック院長
https://www.afc.tokyo/
NPO法人Healthy Children, Healthy Lives代表理事
東京大学医学部附属病院小児科医師
東京大学大学院医学系研究科公衆学/健康医療政策学教室非常勤講師
東京外国語大学卒業、帝京大学医学部卒業、東京大学大学院医学系研究科公共健康医学卒業
近著に「小児科医がすすめる最高の子育て食」講談社
二児の母